女は見た

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女は見た

《牛乳やら砂糖やら何やらを使ったひんやり系スイーツを売る女の場合》 土曜日の午後。 幸せそうなカップルが何組も目の前を通り過ぎてゆく。ただいつも通りバイトをこなし学費を稼ぐ私は、その光景を怠惰に眺めながらアイスクリームをコーンに入れては売り入れては売りの繰り返し。とりあえず…… リア充爆ぜろ。 この3年で培った営業スマイルを振り撒きながらあんたらにアイスを売る独り身女子の気持ちがわかるか!! え!? あーんとかしてんじゃねぇよばかぁ!!(号泣) どうせならね、どうせなら腐つくしいカップルを拝みたい訳ですよ。こう見えて腐女子なんです、私。は? 見るからにそうだって? 喧しいわ。あんたの家薄い本で埋め尽くしてやろうか。 失礼、つい腐教の……いや布教の癖が……。 ともかく、荒んだ私の心にはオアシスが必要なのだ。“萌え”というオアシスが!! イチャイチャカップル達からの視界の暴力と長時間の営業スマイルによる表情筋の披露に耐え忍ぶ私にささやかなご褒美を与えてくれてもいいじゃない。神様仏様、どうかこの憐れな独り身バイト女子大生に萌えを……! 「イチゴと抹茶ひとつずつ」 注文の声でハッと我に返った。 くるりと振り向いてキラキラ営業スマイルを装備。元気よく注文を受けようと切り替えた。 「はい! 少々お待t……」 イケメエェェェェン!!!! 「……i下さいね!」 私の目の前にいたのは紛れもないイケメンであった。鋭い目元とシャープな輪郭がクールで、どこか野性味を感じさせるワイルド系イケメン。左耳のシンプルでメタリックなピアスがよく似合っている。髪は染めていないけれど、ちょっと気合いを入れてカッコよくセットした感じがする。デートかな、とイチゴアイスをコーンに入れながらイケメンの隣を盗み見る。 ……男子ィィィィィ!! 萌えの神様ありがとう! (歓喜) ほうほう……なかなか端整な顔立ちだけど、隣のワイルドイケメンが派手過ぎて霞む系か。だがしかしそこがいい! ひょんな事で「あれっ、コイツって意外と……」って気付いちゃえばいいよ! 内心ウハウハしながら今度は抹茶に取りかかる。勿論チラ見は続行で。 「ニシジマ、どっか行きたいとこあるか?」 「わかんねぇ。佐藤は?」 「俺の聞いてどうするんだよ。お前が行きたいとこに行くって約束しただろ?」 どうやらワイルド君の方がニシジマ君、もう1人が佐藤君というらしい。ニシジマ……西島? 西嶋? どっちかわからないけど。会話の内容からして完全にデートですねわかります。 ふっと笑う佐藤君に、西嶋(仮)君が若干目を泳がせた。 「俺は……ただ、歩きたいだけだし。行きたいとこなんかは別に……」 「年寄りみたいな事言うなお前……んじゃ、歩きながら探すか」 おうふっ……! 「歩きたい」の前に「お前と」っていう副音声が聞こえた……!! ヤバいぞ私。相当飢えてる。 でも、あながち間違いではないかも知れない。西嶋(仮)君、ちょっとだけそわそわしてるみたいだし。女の目は誤魔化せないのよ……特に腐ってたらね! 「はい、お待たせ致しました」 出来上がったイチゴアイスと抹茶アイスを差し出すと、西嶋(仮)君の方がイチゴアイスだった。ギャップゥ……グハッ 「ありがとうございましたー!」 にこやかに見送り、2人が私に背を向けた瞬間、カッ<●><●>と目を見開く。 佐藤君がちょいちょいと西嶋(仮)君の革ジャンを引っ張ってイチゴアイスを貰うところはバッチリ目撃。うちの店の青汁級の苦さを誇る抹茶アイスに初めて存在意義を見出だした。 ──わざとスプーンを付けずに間接キッスを仕向ければよかったなんて、邪な事を考えたのは秘密だ。
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