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なにがメインディッシュだ、マツバが前菜とでも言いたいのか、と西園寺は苦々しく思ったが、面の皮の厚さには自信がある。
ニッコリと笑って、頭を下げた。
「大臣のご厚意に感謝いたします」
さて、そうしたわけで今晩の相手は大臣を以って指折りと言わしめたその男娼、アザミなのであるが……。
畳敷きの和室に用意された褥に、しなやかに座ったアザミが、抜き襟のうなじを艶やかに見せつけるようにして、西園寺へとお辞儀をする。
「可愛がってくださいませ、西園寺様」
細い指先や、目の伏せ方、そして艶めかしく動く口元のホクロ。
アザミの動作のすべてに性的な匂いを感じて、西園寺はマツバとのあまりの違いに驚嘆する思いだった。
「きみはまた……ずいぶんとマツバとは雰囲気が違うな」
西園寺がアザミと向かい合って胡坐をかくと、アザミの唇が笑みの形になった。
「ふふ……マツバ、ね。西園寺様は、マツバのようなのがお好みですか?」
「俺は男娼はマツバしか知らないからな。ああいうのが普通だと思っていた」
「ああいうの。なるほど。初心で、控えめにみえる妓、ですね。西園寺様がお望みなら、アザミも、そのように」
西園寺は眉を顰めた。なにか、不愉快な言葉を聞いた気分になった。
アザミの言い方ではまるで。
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