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この時、僕は「もう、役者を目指すのは辞めたんです」とハッキリと伝えたのだが……。
映画にさえ興味のない日向が野島目当てにサークルに入ってしまい、僕をなかなか諦めてくれない野島に加えて、日向まで僕をサークルに勧誘してくるようになった。
幽霊部員でもいいから、という条件に折れてしまったのだが、ここに来て雲行きが怪しくなってきた。
「別に……興味がなくなっただけですよ。とにかく僕は出演する気は無いので。他を当たるように野島先輩には言っておいてください」
「話くらい聞いたらどうだ? 麻子先輩、お前に認めてもらいたくて必死に脚本書いてるみたいだし」
「だったら日向が出演しろよ。とにかく僕は籍を置くだけでいいって条件でこのサークルに入ったんだ。無理強いするっていうなら、今ここでサークルを辞める」
僕がそう言うと、日向はグッと言葉を飲み込んだ。
野島の思惑はわかっていた。
籍さえ置いてあれば、そのうちまた僕が役者に興味が湧くと思っていたのだろう。
高校の文化祭で演じた作品を評価されたことは、正直嬉しかった。
だって、あれは彼女の――絢音の遺作となったのだから。
僕は役者に、絢音は脚本家になるのを夢見ていたあの頃。
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