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 夢がどんどん浅くなり、同時におかしな鎧の音を聞きながら、ゆきは思う。  水の中に落ちてゆく夢。あちこちから美しい錦が踊りながら水面へ上がってゆく。眩しい波の中。壇ノ浦。  (壇ノ浦)  己のなかに、ひょいと飛び込んできたその言葉に、ゆきは驚いた。  どうして壇ノ浦だなんて思いついたろう。がしゃんがしゃん――がしゃん。重たげな足音はいよいよ近くなり、ついに、ゆきの横たわる部屋の前で止まった。  ああ。今夜も眠ることなどできそうもない。覚醒して起き上がったゆきの耳に届くのは、鎧の音でなく海鳴りの音。ざざん、ざざん。  月明かりだった。障子を透かして部屋に差し込むほんのりとした白い光。部屋の闇はお陰で薄く溶かれていた。布団から出ると、ゆきは身支度をした。どうせ朝まで眠ることなど叶わないのだ。  そしてゆきは、壁に打ちかけられた琵琶を取る。自分の体の半分ほどの大きさの、見事な古い琵琶。大事な撥は麻の紐でくくり、首から下げている。銀杏の葉のような撥を手に取り、ゆきはおもむろに琵琶を奏でる。べべん。  ざあん。  薄雲から月が綺麗に顔を出した瞬間だったろうか。ほんのりとした弱い闇に光が差した。     
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