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母が入院したのは月曜日の事だった。病院が家から離れていたので、玲香は毎日お見舞いに行けなかった。今日は土曜日である。一日中母の傍にいよう。玲香はそう思い、ボストンバックの中に母の洗濯物等を入れた。洗濯物は柔軟剤の香りがしていい気分になった。何だか良い予感がする。母の具合も良くなったに違いない。玲香は春の日差しの中、気分良く病院に出掛けた。ただ気がかりなのは、葵が留守番をして家事全般をやってくれると約束をした事だ。お父さんは休日出勤なので家に居ない。叔父さんと葵、二人で家に取り残してきたのだ。玲香は出掛けるとき葵に 「ちょくちょく連絡いれるから、何かあったら宜しくね」 とお願いしてきた。 「うん。私も何かあったら、連絡いれる。ゆっくりお母さんのお見舞いをしてきた方がいいよ」 葵はそう言って玄関で玲香を送り出してくれたのだった。 病院に着くと母の入院している五階にエレベーターで登る。母は寝ていると思ったが起きて小説を読んでいた。 「こんなにゆっくり出来るのは何年ぶりかしら。今まで家事で忙しかったから、久しぶりに休めるわ。ちょっと得した気分よ」 「得なんてしてないよ。それよりお母さん、癌について詳しい事は解った?」 取った癌の腫瘍が検査に周っていたので、手術の結果がでているはずである。 「玲香、お母さんの癌ね、調べた結果、リンパ節に転移しているらしいの」 嗚呼。何て事だろう。リンパ節に転移したら大変な事は事前にパソコンで調べて解っていた。今朝の良い予感は何だったのか。玲香は気の抜けた様にベットの横の丸椅子に座る。
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