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「何か話してくれないか。なぜお前はうちにくることになったんだ?」 「丸岡さんの紹介です。丸岡さんとは遠い親戚で」 「へぇ……そうだったんだ。丸岡なんにも言わないなぁ。まぁ、でもそうだよな。身元がハッキリしてる人間を雇うのが基本だもんな」  話し始めると、不思議と沈んでいた気持ちが楽になってきた。  仰向けの体勢になり目を少し開き、新田を見上げる。スッと伸びる鼻先。口角が自然に上がった特徴的な口元。すっきりした顎のライン。  新田は近くて、いつもより近づきがたい空気をまとっている気がした。ちょっと動けば寄り添える距離で、そう思うとあとちょっとの距離が歯がゆいような。  新田は自分の太腿に置いた両手の指先を見ていた。  隣にいる俺のことより、ささくれが気になるのか。 「将来は執事になりたいと考えてるのか?」  丸岡の立ち位置になったら新田は俺とずっと一緒にいることになるかもしれない。漠然とした未来を考える。 「目標があるわけじゃないんです。でも、面白い職業だなとは思います。お手当てもいいですし」  一瞬チラッとこちらを見て微笑む。 「嫌になったりしないのか?」  こんな俺の世話係なんて押し付けられて。 「特にありませんね。今のところ」  変わったやつだ。  そう思いながら少し嬉しく感じてる。 「……そうか……」  不思議だ。妙に心が安らぐ。女といた時にはなかった現象だ。眠るためには人肌が必要だと思ってた。でも、女じゃなくても……新田でいいじゃないか。  だんだん瞼が重くなっていく。  落ちていく意識の中で、手を握ってほしいと思った。さすがにそれは言えない。暗い暗い闇へゆっくり落ちていく。でも怖くはなかった。「ここにいる」と新田が言ったから。
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