第6章:北の国から

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「…」  セシルが報告書をカイゼルに渡しつつ見れば、カイゼルは覚えがあるのかうってかわって真面目な顔つきになっている。どうやら、何か身に覚えがあるらしい。セシルはとりあえず、巻き込まれるのは面倒だと、促す兄に従って扉にいそいそと向かう。 「じゃ、お説教頑張れよ」  そうして、セシルは兄と共に、廊下へ出た。 「兄上も今帰り?」 「ああ、お前もだな。一緒に帰ろうか」  ラウルはセシルと2人ならんで、城の廊下を外へと向かう。たまに忙しそうに、役人がとてとて走って行き来しているが、昼下がりの王城とは基本のんきなものだった。さらに、夏の終わりの気配が、けだるさと郷愁がまざった空気を空間にみたしていて、余計に時間がたつのが遅い気がする。  前の事件の時は国家規模だったから、その時の城は連日、皆必死な顔をした役人や侍女やらがどたどたと走り回っていた。今回のはちょっとした事件だから(とはいってもラウルにとってはそんな気がしないのだが)、城の様子にさほど変わりはない。ふと、脇をみれば寿退職した侍女が自身の子供を抱いて、かつての仲間と共に談笑しているようだった。挨拶がてらに来たのかもしれない。     
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