カブトムシ

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カブトムシ

 現在会社員である内田さんがまだ小学生の頃の話である。  内田さんは夏になるとカブトムシを捕るために、友達のT君と一緒に山に入るのが恒例行事となっていた。その年も二人はカゴを首からぶら下げて自転車に乗り、近所の雑木林に向かった。クヌギの木を求めて林の中に分け入ると、町の喧騒はすぐに消えた。  二人ともカブトムシが生息している場所は匂いで分かるようになっていたため、鼻で深呼吸しながら歩いていた。  目ぼしい木を見つけるとT君は地面を見つめたまま押し黙った。開始の合図である。木のそばに立っている内田さんが足の裏で幹にキックを撃ち込むと、振動は木全体に広がり、頭上から葉音が聞こえた。  油断していたカブトムシは突然の揺れに驚き落下する寸法だった。二人はカブトムシが地面に落ちた際の音を聞き逃すまいと耳を澄ましていた。
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