第8章

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予想通り資料が山積みに机の上に置かれ、どれからやってもいいよという顔でにっこりと微笑まれた。 「私も、これが終わり次第手伝います」と、高橋さんは私のリストを受け取ると早速仕事を始めていた。 チラッと栗栖社長の顔を見ると、特に変わった様子はない。 『ホントこの部屋の人達ってみんな役者だな』と心で思い、腕まくりをしてパソコンに向かった。 久々の資料作りは、以前よりポイントが掴めているので作業は意外と順調だった。 長谷川社長には敵わないけど、思ったより苦にならないので、黙々とやっていると、高橋さんも先程の資料が片付いたのか手伝いに入ってくれた。 社長達の女性関係は最悪で、私もここに来てかなり振り回されてるけど、その代償として仕事のスキルは上がっている気がする。 前の部署では経験できない事に沢山取り組めているし、そういう意味では勧めてくれた部長にも感謝していた。 部長も今は高橋さんのチームでリーダーを任されていて、重要なポジションについている。 初めはその位置に憧れを抱いていたが、今では社長補佐という仕事も充実している気がする。 『人って変わるんだな』 販売員から本社に勤務して、前の部署で力を発揮できるよう毎日頑張って来た。 この部署への異動をあれ程嫌がっていたのに、――おまけに絶対に好きにならないであろう人物に恋をするなんて。 「そろそろお昼にしませんか?」 時計の針は13時を回っていて、社長達はお昼に出掛けてしまった様子。 どうやら没頭しすぎていたようで、高橋さんと一緒に食堂に向かった。 「量も多いし疲れていませんか?最近、坂田さんが栗栖社長と行動を共にしてるので、構ってって欲しいのかもしれませんね」 「そうですか?いつもと変わらない様子ですけど」 構うどころか、作業が忙しすぎてお互いに会話も出来ないぐらいだ。 色んな意味で疲れているので、キノコピラフセットを注文し、ガッツリと食べている。 もしかすると夕方休憩が取れないかもしれないので、しっかりお腹に入れておきたかった。 「今日の長谷川社長はやる気で、私としては少し安心してるんですが」と話す高橋さんが嬉しそうに見えた。
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