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第8章
「チラッと見えたけど、いいアイディアだな」
ボソッとした一言に『見たんだ』と思うと顔が赤くなり俯いた。
「いっ、いえ、あの、ただ……着てみたいのを落書きしただけなんで」
全体を描いてしまっているので、ウチのデザイナーの前では誤魔化しようもなく、正直に白状するしかない。
「高橋のチームの企画で却下にした案知ってるよな?」
「はい、コストを下げたセカンドブランドの件ですよね」
話が思わぬ方向に逸れ、仕事の内容になったので即座に答えた。
「――あれ、どう思う?」
既にセカンドはあるが、より安い価格帯の立ち上げ案は、企画の時点でボツになっている。
――それをどうって今更聞かれると、真剣になってくる。
「Lilyのセカンドブランドは必要ないと思います。そもそもコンセプトが違ってきますし、お客様もガッカリするでしょう。オリジナルの柄も生地の良さも全部消えてしまい、残念な結果になるかと……思います」
途中でブレーキを掛けないと熱く語ってしまいそうで、一息いれてから締め括った。
「女性社員はやっぱそういう意見なんだよな……俺も同じ。ネット販売も店舗も好調だから、新店は出していいと思うけど、Lilyのコンセプトを変える気はない」
「私も生地のコストを下げるより、テイストにアレンジを加える方がいいと思います。現に売り上げが下がっていないのが、ニーズに合ってると判断しています」
――と、やはり追加で語ってしまったが、黙って聞いていた社長が、大きく頷くと少し安心した。
ウチはセカンドを含めて5ブランド展開している。
でもLilyのセカンドの件は眼中になく、作る方に携わるようになってからは特に商品へのこだわりを知ったせいで『必要ない』と思っていた。
「桜はウチの商品バカだもんな」とクスッと笑い目を細める社長。
「それは褒め言葉ですか?」
「もちろん。本当は企画に入りたいんだろ?」と不意うちの質問に
元気が良すぎる声で「はいっ」と答え、社長が呆れた顔で耳を塞いでいた。
「……ダメだな」
「何故です?」
「ここまで熱いと前が見えなくなって、周りの意見を取り入れず突っ走りそう」
と言われたが、目の前にいる人こそ意見を聞かないので、私の方がまだ幾分マシだと思う。
『納得いかないな』と思いつつ普段なら顔に出さずにやり過ごすが、仕事となると話は別だ。
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