深まる疑惑

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要さんが会食から帰って来たのが確か午後二十二時を回っていて、現在日付が変わって零時三十分ぐらいだろうか。 いつものように、要さんに腕枕された腕の中で、背中から包み込むようにして抱き締められていた私が、なかなか寝つけずにいたところ、要さんに声をかけられてしまったのだけれど……。 「……ん? どうした? まだ眠れないのか?」 「あっ、はい。さっき寝ちゃったから目が冴えちゃって。起こしちゃってごめんなさい」 「いや、俺もまだ寝入ってなかったし、そんなことでいちいち謝らなくていい」 「ご、ごめんなさい」 「だから、謝るなって言ってるだろっ!」 「……」 寝入りかけていたところを私に起こされてしまって、虫の居所でも悪いからなのか、話してる途中で、突然怒りだしてしまった要さん。 そういえば、帰ってきた時にも、ソファで転た寝していた私のことを怒って、お説教じみたお小言を繰り出していたっけ。 あれは、心配性の要さんが夏バテの私のことを心配してのことだと思っていたのだけれど、そうじゃなくて、ただ機嫌が悪かったからなのかもしれない。 それはやっぱり、静香さんの所為? 静香さんと再会して、やっぱり何かあったのかな? 要さんの元カノである静香のことを知ってしまった所為で。 どうしてもそういう風に考えてしまう私は、怒らせてしまった要さんの言葉に、何も言えずに黙りこむことしかできないでいた。 ……だって、私が何か言ったら、要さんのことを余計怒らせることになりそうなんだもん。 そんな私が、また泣いてしまうとでも思ったのか、焦った様子の要さんが、腕の中の私のことを気遣うように、 「あっ、いや、怒るつもりじゃなかったんだ。ごめん」 そういって、後ろから自分の顔を私の耳元に寄せると、 「……ただ、美菜がいつまでたっても俺に対して、他人行儀というか、遠慮がちというか。それが面白くないというか。歳が離れているから余計、距離を感じるというか……」 何やら言いづらそうに、要さんらしからぬ、歯切れの悪い言い方をしてきた要さんが、私のことを抱きしめる腕に力を込めながら、 「とにかく、もう、敬語はやめてほしい」 今度はキッパリと言い切った要さん。 なんだ、そういうことだったんだ。 静香さんの所為とかじゃなかったんだ。
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