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突然、目の前にスエノの姿が現れた。スエノのことが認識できるし自分が誰なのかもちゃんと分かっているということは僕の脳は人間レベルで正常に機能しているということだろうか。さっきまでの窮屈な脳は何だったのだろう。悪夢でも見ていたのか。
スエノのケッケッケッという耳障りな笑い声に僕は救われた。
「どうでした。鳥になった気分は?」
僕はゾッとした。悪夢などではなく、スエノはおそらく鳥のエミュレーションを試みたのだ。
「経験してもらったのは脳のうちの鳥との共通項だけを残して他の部分は麻痺させた状態です。これはなかなか難しい処理でしてね。そのものズバリというわけにはいきませんが、凡その感覚は掴んで頂けたかと思います」
スエノはケッケッケッと短く笑った。
「いきなり鳥になるのは、さすがにね・・・・」スエノは嬉しそうに言った。「心の準備をして頂こうかと思いましてね」
「本気で僕をあの小さな物体に押し込もうと考えているんですね?」
「勿論です。しかし難易度はかなり高くて時間のかかることですから」
スエノは嬉しそうにケッケッケッと笑った。
「私の代では難しいでしょうね」
「それって・・・・」
「心配することはありませんよ。この施設には優秀な鳥の使徒がたくさん居ますから。私が居なくなっても全く問題はありません」
僕を鳥にするために延々と手術が繰り返されるわけか。これから先のことを想像すると、ウンザリと言うか、ゾッとする。
「今からでも遅くはありませんよ。止めたいなら言ってください」
そう言って、スエノは僕を奈落に突き落とすかのようにケッケッケッと意地悪く笑った。
僕にそんなことが言えるわけがない。
彼女、いや、青い鳥なしではもう生きられないし、死にきることもできないのだから。
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