19人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
オッサンの作った朝食は、母親の作った味付けに近く、美味しかった。
こんな料理が毎日食べられたら、どんなにいいだろう。
理想的な脚を持ち、料理が上手なオッサンと、もし、一緒に暮らしていたら……
仕事で疲れて帰った夜、レースのエプロンをひらめかせ、美しい脚を惜しげもなく披露しながら、俺を笑顔で出迎えるオッサン。
食卓には、あたたかい料理が並んでいる。
そして、ふたりで食卓を囲み、熱い料理には、オッサンが息を吹きかけ、俺の口元に……
「ああ!!」
ドンと拳でテーブルを叩く。
正気に戻った俺の向いには、なぜか一緒に朝食を食べているオッサン。
口ひげにはご飯粒がついている。
とってあげるべきなのか。
いや、そんなことしたら、まるで恋人同士じゃないか。
見て見ぬフリをしながら、俺はオッサンの焼いてくれた鮭を口に運んだ。
「お口に合いますでしょうか」
不安げにオッサンが俺に尋ねた。
「ああ、上手いよ。俺の母親の味付けに似てるし」
オッサンの口ひげについていたご飯粒は、今度は頬に移動している。
「お母様はお元気なのですか?」
「まぁね。最近会ってないけど」
オッサンの頬についていたご飯粒は、今度は、額に移動している。
どうして、そんなに、移動するんだ、ご飯粒。
気が散って仕方ない。
「お父様は?」
「……さぁね」
父親は、警察官だった。
だが、俺が高校生の時、突然失踪してしまったのだ。
オッサンの額についていたご飯粒は、いつの間にか消えていた。
まるで父のように。
最初のコメントを投稿しよう!