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第1話①
戦場において、命というものは常に軽んじられている。
すれ違った者が死ぬ。目を合わせた者が死ぬ。軽く挨拶する仲になった者も、訓練を共にした者も、旧知の仲の者も、皆等しく死ぬ。別れ、という言葉を一々使っていられないほどに、それは日々訪れる。
ここでは、命の価値は平等だ。平等に無価値だ。
しかし、だからこそ僕は、僕だけは一つの命を大事にしたいのだ。
どんな命も平等に尊び、失われればその別離に涙する。
だから僕は、彼が亡くなって、目の前が真っ暗になる思いがした。
これから彼無しで生きていかなければならない。
「コーちゃん……」
思わず、彼の名を呼ぶ。
少し目を離した隙に敵に襲われた彼は、そのまま僕の前からいなくなった。残されたのは、足一本のみ。
彼との付き合いはこの戦場に来てからだが、苦楽を共にした仲だ。言葉を交わすことこそなかったが、心では通じ合っていたと思う。
この戦場でくじけずに今日までやってこれたのも、彼のおかげだろう。
彼の力強い歩みを思い出す。
そうだ、彼の分まで生きなければ。
今までありがとう、コーちゃん。君の分まで、しっかり生きるからね――。
僕は手ごろな木の棒で小さな穴を掘り、彼の足を埋めた。その上に、石ころを置く。何故だか、小学生の頃の夏休みを思い出した。
「安らかに眠れよ、コーちゃん……」
黙祷をささげると、立ちあがり伸びをして顔を叩いた。
日差しが眩しい。快晴だ。
さて、いつまでもくよくよしてはいられない。動き出すため、次の行動を言葉にする。
「よし。新しいペット探すか」
鳥に捕食されたコーカサスオオカブトの代わりを探しに、僕は歩き出した。
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