第1話 登校

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第1話 登校

 十四歳。思春期真っ盛りの女子中学生である己の頭に、ハゲを発見した朝。志田キヨミは冗談でもなんでもなく、自殺を考えた。  額の左上、いわゆる前頭骨。ばっちり鏡で確認できる部位に、小指の先サイズの白く、初々しく、ツヤツヤした楕円形。桜の花びらを連想させる、いっそ『可愛らしい』と形容しても良いぐらいの。おそるおそる指を伸ばすと、頭皮の滑らかな、それでいて張りのある感触が伝わってきた。感情は否定しようとするが、視覚、触覚ともに『有効!』のフラッグを掲げ、その実存を脳に訴える。  キヨミは洗面所の前でがっくりとうなだれた。  理由はわかっていた。もちろん、白血病を宣告され、抗がん剤を投与されての副作用ではない。先日読んだ漫画のヒロインのような。  理由。それはストレスだ。  勉強、部活、トモダチ付き合い……学校はサバンナさながらに厳しい野生の王国。四方八方から災厄が押し寄せる。疲れ果てた戦士を癒してくれるはずの巣穴(いえ)は、建替えローン、父親の単身赴任、同居&介護問題エトセトラエトセトラにて、今にも崩壊寸前。キヨミはびょうびょうと吹くストレスの風にさらされていた。     
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