発覚

10/10
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 それからひと月が過ぎた。雨が降らない日々が続いていたある日。乾燥した王都の食糧庫で小さなボヤ騒ぎが起こった。その犯人はわからず、いまだに死体すら見つからないカルロスとマリーではないかと噂が立った。彼らが戻ってきたのだと騒ぎにまでなっていた。  そんな中で、カルロスとマリーは見つけ出された。やはりふたりは寂しい湖にいたのだ。その姿を見ようと、湖のほとりには退屈から逃れにきたくだらない人間たちで溢れだした。その先頭にはアンナがいて、その横にはトレドがいた。  彼らの視界には、はっきりとカルロスとマリーの姿が映し出されていた。ふたりは干上がった湖の底で、一本のロープをお互いの体に結びつけて、抱きしめ合って横たわっていた。  安否を確認するまでもないのだが、司教が歩み寄って首筋の脈へ触れた。教会で亡骸を弔うために男たちが駆け寄った。運び出すために抱き合うふたりをはがそうとするのだが、硬直した肉体がそれを拒む。さらに貴族の令嬢たちからの非難の声が上がった。彼女たちにとって結婚に愛は存在しない。だが、このふたりの間には間違いなく真実の愛で結ばれている。 「あぁ、マリー」  トレドが不用意に漏らした悲しみ。自分が望んでいたマリーの心をカルロスが手にしていたことを、この光景を目の当たりにしてようやく理解したのだ。  そして、マリーの名を呟いた一言が、アンナの耳には届いていた。トレドの思いは悟られて、さすがのアンナも自分が欺かれていたことに気が付いた。  ふたりの愛を目撃して、慈悲の心で満たされていた湖のほとりには高波が打ち付けるような、アンナの罵声が轟いた。トレドの処刑の命が下されたのだ。  証拠なんて何一つないけれど、アンナの言動が真実となるのがこの国の運命。それを誰よりも理解し利用してきたのがトレドだった。それにもかかわらず、自分の潔白を証明せんといつまでも詭弁を唱えて、覆ることない生にしがみ付いていた。まさに王都に住む貴族らしい姿であり、喜劇としか言いようがなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!