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「僕に・・・僕に、もっと強さがあれば・・・っ!!」
一人になってしまった診療所の中で、クラウドは一人、拳を強く握りしめた。
そこへ。
「────君は充分に強い」
声がして、クラウドは顔を上げた。
すると、視線の先に・・・暗色の服を着て現れたアイズがいた。
人生を根本から変えた切欠となった人物を前に、クラウドは目頭が熱くなった。
「せん・・・せい・・・・・・」
「君にもやれることはある・・・・・・私を助けて欲しい」
鋭利な眼光を宿すアイズの目から、クラウドは目を逸らせなかった。
そして、今に至る。
「先生、捕まってください!」
アイズの腕を掴みながら、風の精の助けを持って、クラウドは浮上した。
気流に沿って、外門の頂上までひとっ飛びし、着地する。
直後、凄まじい風の余波が二人を襲った。
「風の精が騒いでいる・・・始まったんだ」
目に見えない存在の動きを読み取って、クラウドは瞳孔を縮小させた。
強い風鳴を耳にしながらも、アイズもまた、その向こうで繰り広げられている戦いの空気を、剣呑な目つきで読み取った。
「ユウくん・・・アサちゃん・・・」
まさか・・・あの二人までも巻き込むことになるなんて。
ということは、もう・・・知っているのだろうか。
家族のことを・・・。
そこまで想定して、アイズは胸がずしりと重くなったが、堪えた。
今は感傷に浸っている場合じゃない。やらなければならないことがある。
あの日から、アイズには泣いている暇さえ無かった。
家を出た後、初めて会う祖父と祖母の元へと、アイズはメイレイと共に身を寄せることになってしまった。
祖父も祖母も優しい人達で、随分と歳がいっていた自分を暖かく迎え入れてくれた。同門の人達も、穏やかで優しい人達ばかりで、父親の身元が知られていない自分達家族を大変良くしてくれた。
恵まれていると思っていた。だけど、それが却って、アイズの肩にのしかかって来た。
ここまで優しくしてくれる人達の為に、恥じない完璧な自分にならなければならなかった。
そして、日に日に弱っていく母。まだ小学生の弟。生まれたばかりの妹・・・挙句の果てには、妹は母と同じ体質を持って生まれてしまった。
それらが更に、アイズの責任となってしまった。
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