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一台の車が私達のそばを走り抜けて行った。
「……あ、外だった…」
「…フフッ、ホントだ…」
顔を見合わせて笑い合う。
こんな風に、何度も何度も、同じタイミングで、顔を見合わせて微笑み合って…きっと、これからもこうして同じ瞬間を、共有していくんだろうな…
「早く帰ろ。」
「うん。」
手を繋ぎ直し、マンションへの道を再び歩き出す。
私の歩幅にゆっくりと合わせて歩いてくれるナオ。
あまり体温の高くない、でも私を包んでくれる大きな手。
時々、こちらに視線を向けて、フッと頬を緩める柔らかい笑顔。
一度は諦めた、ナオと過ごす幸せな時間。
こんな風に…周りのみんなに温かく受け入れてもらって、こうして、堂々と手を繋いで歩ける事は、当たり前なんかじゃない。
私達はたまたま…仲間に、周りに恵まれてただけ。
何も言わずに私を奪って連れ去ってくれたら…
そんな風に思った事もあったけど…
何も失う事なく、むしろ、たくさんの優しさをもらって、こうしてナオと寄り添って笑い合える奇跡を、大切に大切に、育てていかなきゃ。
傷つけてしまった人達の為にも、私達自身の為にも…
「あ、星…」
「ホントだ…綺麗。」
ふと見上げた夜空には、夏の星座がキラキラと光を放っている。
「美結の家までのあの…暗い道程ではないけど…」
「キャンプで見た満天の星には負けるけどね…」
フフッ…
フッ…
再び目を合わせて微笑み合う。
「また、キャンプ行けるかな…」
「ああ、もう、カジが予約取ってたよ。」
「そっか、楽しみ…」
「………みんなとのキャンプもいいけど…2人でも、どこか行こうな。」
そう言って優しく笑うナオに、
「うん、行こう、行きたい…2人で…色んなところ…」
「おぅ、どこでも…美結の行きたいところなら、どこでも連れてくよ。」
ニコッと笑顔を返すと、不意にチュッと唇が塞がれた。
「………やべ、我慢できなかった。」
「……も、もう…」
カァッと火照る頬をパタパタと手で煽ぎながら周りをキョロキョロと見回す。
「大丈夫、誰もいない…多分。」
そう言って、もう一度、さっきより少しだけ、長く深い口付けをくれたナオに
「……好き。」
思わず想いが溢れる。
「………こんな所で…反則。」
ナオはそう言って、思いっきり頬を緩めた。
星の数ほどの出会いの中で、貴方に出逢えた奇跡を、
心を通じ合わせられた幸せを、しっかりと、噛み締めて、温めて、育んで、決して忘れないように…
ギュッと握りしめたこの手を、絶対に離さずに、貴方について…ううん、貴方の隣を歩いていく。
目を細めて頬を緩める、いつもの柔らかい、大好きなナオの笑顔の肩越しに
私達をそっと見守るように…
夏の星座が優しく、瞬いていた。
完
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