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「マンデリン・フルシティロースト。お待ちどおさまでした」
マスターは、そっと淹れたばかりの珈琲を、目の前の女性客に差し出す。
カップは、大倉陶園のブルーローズ。
純白の陶器に岡染め紺青の薔薇が浮かび上がるため息が出るほどに美しい珈琲カップだ。
女性客は、そっと差し出されたカップを手にして、香り立つ珈琲を口に運ぶ。
「おいしい珈琲ですね」
「ありがとうございます」
店長は微かに口角を上げて目を細めた。切れ長の一重の瞳がクールな印象を与えるマスターだが、微笑む表情は包み込むような優しさを感じさせる。
女性客は満足そうにカップをソーサーに置き、小さくため息をついた。
「ねえ、マスター。良かったら聞いてもらえるかしら。つまらない話なんだけど」
「うかがいましょう。私でよければ」
マスターは手にしていたサイフォンを置いて、カウンター内にある丸椅子に腰掛けた。
女性客は、少し嬉しそうに笑って、また小さくため息をついた。
マスターは眼鏡を右手の中指でそっと上げて、女性客の話を静かに聴いた。
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