第三章、木は体である、其、滅び無き体の滅美行く兆し

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「人やめてる人って案外多いものですよ。我が家の食客には人だったのに原因不明で虎になった方もいますし、牛車を引いているミノタウロスだって人として生まれるはずだったのに父親が神に不義をしたせいで牛の頭で生まれてしまいました、余りの美しさに天地開闢の始神に誘拐された少年が神の一員になったと言う話もありますよ」 「ほう、天地開闢の始神は女神様なのかい?」 「いえ、男神ですよ」 蘆屋道満はこの話を聞いて唖然とした。ちなみに大神ゼウスにその美しさから誘拐され天界のオリュンポスの神々の給仕係となったガニメデスの話である。 村を出て桃を大八車に乗せた商人たちが通る道を見つけた二人はその道を進む事にした。すれ違う商人は喪服姿に如何にも貧民と言った形(なり)の二人をみて「あいつら何だ」といった訝しげな顔をしながら眺めるが二人は気にせずにずっと道を征く。 「鬼ってなんだろうな」 「なんですか急に」 「いや、今言ったように鬼って元々は人だったんじゃないかって思っただけだよ」 「確かに生まれついての鬼は聞きませんね。大体は人が鬼になってますね」 「おい、あのじゃあ酒呑童子は」 「酒呑は確か元々は越後の国のお稚児さんだったはずですよ。女性からの恋文には困らなかったそうです。彼はそれらを相手にしなかったせいで呪いの炎に飲み込まれて鬼になったそうです。今はどうしてることやら……」 「え? 今はってあいつ死んでるだろ」 「ふふふ、そうでしたね」
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