秘宝

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  二人が来た道を少し戻ったところで仕掛けがもたらしたものがわかった。  垂直な壁面から張り出した人一人が通れるだけの幅の通路、それは一枚の細長い石板で作られていた。張り出した通路の前後ではダンジョンは円形の断面を持つ坑道になっていて、こちら側の通路と坑道の境目は天井が高く床面の幅も広い、開けた空間になっていた。石板は開けた場所まで伸びており、床の岩盤にはめ込まれるような形になっている。張り出した通路の下には奈落が広がっており、ランプを持った手をいっぱいに差し出しても暗闇が広がっているだけで、向こう側の壁や奈落の底は見えなかった。  来た時には通路のこちら側の広い部分に正義の神セニアの神像があったのだが、その神像が消えている。通路から続いている石板に小さな穴が開いており、その周りに少しだけ砂が残っていた。 「あの神像は砂像だったんだろう。オパールの下の砂が流れ去ると、砂の通路ができてこちらの神像も崩れ落ちて砂になり、穴を通って流れて行ってしまう仕掛けだ」 「それでどうなるの?」 「来た時には問題なく通れた道が神像が無いと違ってくるのかも」  ショウは前方の通路を睨みつけた。 「どういうこと?」  リンダはけげんな表情で見つめる。 「試してみる」  ショウは通路をゆっくりと進んだ。通路の半ばまで来た時、ショウが踏み出すと、   ゴゴゴゴゴゴオッ 石がこすれる音と共に張り出した通路が前に傾き始めた。背後の部分は上に持ち上がっていく。ショウがあわてて後ろに下がると、   ゴゴゴゴゴゴオッ 音を立てて、通路は水平に戻った。ショウは通路を引き返しリンダのそばへ戻る。   「シーソーのような構造だ。あれ以上進んだらもっと傾いて奈落に真っ逆さまだ。来た時にはここにあった神像が重りになっていて無事に通れたんだが、もうそれはなくなった。帰る時には何かを代わりの重りにしないといけない。それが最後の難関、さしずめ迷宮王の天秤ってところだな」  ショウとリンダは重りに使えるものがないか、装備を調べ、そして周りを見回した。二人はここにたどり着くまでに準備した道具や装備のほとんどを使い果たしていた。残っているのは身に着けた衣服とランプ、ショウの腰に下げたナイフとリンダの持つ戦棍(メイス)ぐらいだった。そして洞穴の中は滑らかな壁面になっていて、重りになりそうな岩塊はおろか小石すら存在していなかった。この難題をどう解くか。しばらく考えてリンダが口を開く。 「通路を通るには誰かが石板の上に立って重りにならないといけないってことよね……。私たちのどちらか一人がここに残ることにして、もう一人が通路を渡る間、石板の上で重りになるっていうのが一番単純な答えよね」 「ああ、そうだ」  ショウは苦虫を噛み潰したような表情で頷いた。 「そして、脱出したもう一人が装備を整えて迎えに来てくれるのを待つ。互いに信頼関係に結ばれた同士ならそうだよな。だが、残念ながら俺たちは盤石の信頼関係ってわけじゃない」  ダンジョンの中で出会った二人はここまで協力して進んできたが、それは攻略のためやむを得ずおこなったもので、ダンジョン突破までの限定的な約束だった。ダンジョンを攻略できた者は隠された財宝を得るだけでなく、難関を突破したものとしての栄誉と称賛を与えられることになる。それを二人で分けるのでなく独り占めしたいという誘惑は、冒険者にとって拒否しがたいものだった。 「別の方法として、一人がもう一人を動けない、あるいは動かない状態にして石板の上に固定し、自分だけオパールを持って脱出するというのもある。あんまり見たくない絵だけどな」  ショウは婉曲に表現した「動かない状態」を想像して胃が重くなった。リンダを見ると彼女も不愉快そうな表情を浮かべていた。 「だけど、俺はもう一つ別の解決方法を考えついたぜ。それはな……」  ショウは話しながら上着のボタンを外し始めた。 
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