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「とんでもない女と知り合いになったものだな」
沖田の返した台詞に、おしずがむっとした様子で目を逸らした。
「身寄りはいるのか」
「いたら、こない仕事してません」
おしずが吐き捨てるように答える。
(・・やはり、そうか)
沖田は胸中溜息をついた。
「奉公は」
「店のいろはも知らへん、身寄りさえ持たへんうちを使うてくれはる処などありしまへんえ」
「内職ぐらいできただろう」
「そないことだけで女がひとり生きてゆけると本気で言うてはるんどすか」
「・・だがこの先も一生、盗みを続ける気か」
「・・・」
おしずは押し黙ってしまった。
沖田は飲み干した茶を置いた。
「二三日くれれば、職を探してきてやる」
おしずが顔を上げた。
「余計なお世話どす」
沖田は苦笑し。
「俺が見逃しても、他の役人が見逃すわけではない。捕まったらどうする気だ」
牢は嫌だと散々言わなかったか?
沖田の言葉に、おしずはぎくりと睫を揺らした。
「こういう時は、素直に人の申し出を受けてみればいい」
「素直やのうて悪うございました」
おしずが、ぷいと顔を背けて言った。
「そういうことを言っているのではない」
沖田は手で膳を避けて、立ち上がった。
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