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(続) 想いのはじまり
「有難う。美味かった」
そう言い箸を置いた沖田に、おしずは安堵の想いで頷き返した。
沖田は江戸の人間だ。江戸の料理と京料理は違うと聞いていたおしずは、自分の用意したものが沖田の口に合うものなのか内心不安だった。
だが京特有の野菜を、おしずの説明を聞きながらもの珍しそうに吟味する様子を見せたり、こうして全て残さず食べてくれたのを見ると、心配は要らなかったのだろう。
「どうぞ」
沖田の茶碗に食後の茶を注いでやりながら、それを受け取る彼の手に、おしずはふと視線を寄こした。
昨夜、財布を受け取るときに偶然ふれたその手指には。
昨夜は暗くて見えなかったが、いま行灯の明かりのなかで見ると、たこのようなものが見える。
皮が重なり、ひどく厚くなっているようだった。
「指、痛うないどすか?」
「指?」
その質問に、沖田が茶碗から口を離しておしずを見やった。
「沖田はんの指にあるの、たこやないどっしゃろか?」
「ああ、これか」
膳に茶を置いて、沖田がその大きな手を返し広げてみせる。
「まあ、痛そう」
「痛くはないな。ずっと昔にすでに固まって潰れることもない。これらは痕だ」
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