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都内の大学病院、外科医の若きエース、灰田智和は事務室に向かって早足で歩いている。
身長は170程度、細身で色白の彼は二重の大きな目を鋭くさせ、“事務室”の文字を睨みつける。
「つまらない話だったらどうしてやろう……」
智和は自分を事務室に呼び出した、刀豆亮太のヘラヘラした顔を思い浮かべた。
亮太は智和と幼馴染で、同じ病院で事務員として働いている。性格もルックスも悪くは無いが、常に「彼女ほしい」と言ってるせいか、まったくモテない。ようやく告白されたかと思えば、清掃員のおばちゃんだったという、少し可哀想な人だ。
智和は大きなため息をひとつつくと、事務室のドアをノックした。
「どーぞー」
やる気のなさそうな気の抜ける返事に内心呆れながらも、智和はドアノブを回した。
「お疲れー」
亮太は回転椅子の背もたれを前にして座り、片手を上げて大きく振る。
「なんだよ、急に呼び出して……」
智和は亮太の隣にある椅子に座りながら、あからさまに不機嫌な態度をとる。
「そんな仏頂面するなって。これでも真面目な理由で呼び出したんだからさ」
亮太はそう言いながら、回転椅子でその場をくるくる回る。
「真面目な理由で呼び出したんなら、真面目に話せよ……」
智和が呆れかえりながら言うと、亮太はピタリと止まり、まっすぐ智和を見る。
「ここ最近備品の減りがはやい。早見さんっていうナースが怪しくて……」
「待った待った! 話進めるのがはやい。備品の減りがはやいって、具体的には何がだ?」
「ゴム手袋、注射器など……。あとは諸事情によりアルコールティッシュ」
亮太は資料をペラペラ捲る。
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