『証拠を見せて』

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『証拠を見せて』

 人には身に染みついた性格というものがある。根本的に根付いた性質、そこは多分どうやっても変えられない。それによって人間って言うものが形成されているんじゃないかと思うことがある。  例えば僕、神経質で意固地。いい加減なことと曲がったことが大嫌い。 「神林くん、これ数字間違ってます。これで何回目ですか? もう少し丁寧に仕事してください」 「はあ、すんません」 「また、うるさいなぁとか思ってるんでしょう? 思っていただいて結構ですけど、仕事はちゃんとしてくださいね。パソコンに向かって遊ぶ暇があったら仕事の半分は片づけて欲しいです」  仕事仲間の机に書類を叩きつけて、聞く気のなさそうなぼんやりとした返事にため息をつく。さらに眼鏡を押し上げて小言を言うまでが毎日の日課だ。そして部署内が微妙な空気になるまでがワンセット。  とは言え、僕だって無駄に文句を連ねているわけではない。至極真っ当なことを言っているだけだ。周りに言わせるともっとオブラートに包んでと言われるが、そんなまどろっこしいことを言って伝わらなかったら意味がない。  こうやってまっすぐに言ったって伝わってるのかどうかも怪しい。 「あ、雪島さん。もうお昼ですよ」 「ああ、うん。神林くん昼一番にそれ取りかかってくださいね。それじゃあ」  早く行ってくれと言う視線を感じてまたため息をつく。いまの仕事は僕の性に合っているが、この職場環境は僕に合っていないと感じる。しかし勤めて五年目、仕事はやり甲斐があるし、主任に昇進してちょっとだけ月給も上がった。  こんな環境のためだけに放り出すのはなんとなく違う気もしている。 「お昼に行ってきます」  もう少し僕が歩み寄るべきなのか? だけどそうすることによってなれ合いになるのは果たしていいことなのだろうか。なんて、考えているから頭が固いとか、融通が利かないとか言われるのか。  もういまは考えるのはやめよう。せっかくお昼だし、少し癒やされに行こう。
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