高鳴り

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高鳴り

 そう言われてしまってちょっと困る。  かなり酔いが回っているのか、代行車の中でわたしの肩に顔をもたれてうとうとしていて、颯くんの髪が頬をくすぐる。  マンションに着いて颯くんを起こす。 「ごめん、未結」 意識はちゃんとしてるけど、足がふらついてる。  エレベーター前まで付き添う。 「お水飲んでから寝てね」  颯くんを支えていた腕を離して、上に上がるボタンを押す。 「帰るの?」 ドアが開かれた。 「……一緒にいて」 直球。やっぱり颯くんだ。  ガツンッ―― 閉まりかかる扉を左手が押さえる。右手がわたしの腕を掴んで開かれた扉の中へ引き込まれる。 「まだ酔ってるでしょう」  エレベーターの中、颯くんは返事しない。指が行き先ボタンを押して………… 動き出す。  すぐに扉は開いて颯くんに引っ張られて通路へと出る。  ふぅ。颯くんが、手摺りに寄り掛かった。 「ごめん…………」 前髪を掻き上げくちゃくちゃにする。悩んだときにしてる仕草に、颯くんの迷いが見える。    思わず手を伸ばしていた。颯くんの指に。  颯くんは驚いて。でも酔いのせいか足元はふらついたまま、つながれた手を離さずに歩く。  前に来た時は彰さんが部屋にいて。てっきり彼女と同棲してるのかな、って誤解をした。     
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