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「剣」
「藤崎~」
渋い顔の武原さんと、ニヨニヨしてる若頭。
「お先に」
いい笑顔で二人に言うあたり、やっぱりカッケェって思う。おっさんの黙々と食べてる姿を見続けたいとか思うけど。
「ぎゅ、牛丼大盛、二つ、お願い~」
「は~い」
店長、俺以外にもいるよね。中を見ると、和田くんもいる。逃げ腰になってるんじゃないよ。
でも、こうしておっさんの近くにいられるのは、正直、嬉しいって思う。
「はい、牛丼大盛です」
「サンキュ、あ、親父、紅ショウガくれ」
「そっちにもあるだろ」
「いいだろ、そこにあんだからよ」
「……若頭、邪魔です」
……うん、全然、怖くないね。
おっさんたちが牛丼をかきこんでる姿に、なんだか和んでしまう。
店のドアが開いて、お客さんが入ってきた。ああ、やっぱり、ビビるよね。この状況は。
「いらっしゃいませ!」
そんな空気を吹き飛ばすように、俺は元気に声を出す。
視線を感じてカウンターを見ると、箸を持ったおっさんが優しく笑いながら、俺を見ていた。
もう、やっぱり、カッケェな。
俺はニヘラッと笑い返すと、お客さんの元へと向かうのだった。
<終>
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