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序
僕らは、気配を殺して家路を急ぐ。
できるだけ人目につかないように。
「サクラみたいに屋根の上を跳んで移動できればこんな気苦労はしないで済むんだどなあ」
「それはそれで絶対目立つと思うけど……」
まあ、確かに。
昼の日中に生身の人間が屋根の上を跳びはねて移動なんぞしていたら今日日あっと言う間にネットの動画行きだろうな。
ともかく今は顔見知り――こと地元商店街の馴染みの人達に出くわすのはできるだけ避けたい事情が、今の僕らにはあった。
自販機の陰から顔を出し、八百屋前の様子を伺う。
「……省吾おじさんは店の奥に下がったみたい。景子さんも居ないかな」
店前は幸いにして無人。
駆け抜ければ数秒である。
「そうだね、今のうちに――」
「……二人ともこんなトコで何してンだい?」
「ふおおおおおおぉい!」
「ひゃああ!」
駆けだそうとした僕らは背後から八百屋の女将・景子おばさんに声を掛けられ、二人同時に素っ頓狂声を上げて飛び退いた。
景子おばさんと旦那さんの省吾おじさんは我が家の爺ちゃん婆ちゃんの同級生であり、商店街の中でも特に我が家と付き合いが深い。
それだけに、今一番鉢合わせしたくなかったのだけれど……。
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