ダウナーイーター

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ダウナーイーター

雪の残る街角に目を向けると、未だ湯気を立てる大きなホットドッグに美味そうにかぶりつく少女と、それをどこか妬まし気に眺める青年の姿があった。 「うん、たまに無性に食べたくなるよねホットドッグ!おいしー!」 「おう美味いか。たんとお食べよ、俺から横取りしたそいつをな」 「パンとソーセージの調和…酸味の効いたケチャップとマスタードが旨味を引き立てて…控えめに言って神ですわ!」 「さては嫌味だって気づいてないなこの野郎」 青年は毒づきながらコーヒーを啜る。傍から見れば少し食い意地の張った彼女と潔癖症の彼氏という風にしか見えない。 「とはいえコーヒーじゃ腹が満たないな。仕方ない、もう一本買うか」 「そういえば、ホットドッグってもとはホットダックスフントサンドって名前だったらしいよ。それをとある漫画家がスペルをド忘れして、とりあえず犬ってつけて投稿したら定着したみたい。適当だよねぇ」 「初耳だわ。まさに偶然の産物ってやつかね」 「そうだねぇ。それと私思ったんだけど、ソーセージってかなり猟奇的だと思わない?」 「…一応聞こうか」 ホットドッグの屋台の前にまで立ち、財布から小銭を出そうとしている青年に、少女の言葉が投げかけられる。 「ソーセージの原型はオデュッセイアにも載ってて…つまり古代ギリシャ時代にはすでに存在していたんだけど、冷静に考えたら、原形もとどめないほど叩き潰した肉を腸にねじ込んで保存食にしてるって、考えてみたらかなりグロいことしてるよね。ギリシャ人怖すぎるわ…美味しさの前では、私にとってそれはソーセージのように些細な事だけどね」 「ドイツのことわざを引用してインテリぶったところで、俺の食欲を下げたことには変わりないからな」 「あのー、ご注文は…」 「ああ、すみません。チェダーチーズツナサンドを一つ」 青年は詫びを入れて、別メニューを屋台の店員に告げた。ホットドッグの気分とはいえ、今の言葉を聞いて素直にホットドッグは頼みにくい。 「かしこまりました。…ところでお客様、ツナってかなり猟奇的だと思いません?マグロを湯がいてバラした挙句油に漬け込むんですよ。残虐極まりないと思いませんか?」 「何?そう前置きするのブームなの?おじさんそういうのちょっとよくわかんない」 その後、青年は結局ジャムとマーガリンのサンドを買ったという。
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