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プロローグ
△3ヶ月近く経った今でもあの試合の映像が脳裏に焼き付いて離れない。
照り返す夏の日差し、やたら煩い蝉の声、灼熱地獄と化した野球グラウンド、そして選手達の声をかき消すほどの歓声。
俺は額から滴れ落ちる汗をユニフォームの袖で何度も拭い、そしてバッティングセンターにあるピッチングマシンのように何度も腕を振った。
でも、ストレートを投げても変化球を投げてもボールはキャッチャーの元に届くことなく、たった数センチの金属の壁に尽くさえぎられる。
そして、ほんの数秒前まで自分の手に握られていたボールは気づけば外野の芝生をコロコロと転がっていった。ひとり、ふたりと相手の選手がホームベースを踏んでいく。
それを最初のうちはカウントしてたけど、その数が増えるにつれて段々頭が真っ白になっていき、途中からは何も考えられなくなっていた。
そんな中、味方も相手に負けじと反撃ののろしを上げ1点、2点と得点を重ねる。盛り上がるベンチとは裏腹に《やめてくれ》と俺の心は叫んでいた。その時にはもう勝ち負けとかどうでも良くなっていたのかもしれない。いかにして早くこの生き恥を終わらせるか。それしか考えてなかったんだと思う。
結局、俺の願いは届かず試合は9回まで続いた。続いてしまった。
スコアなんて見たくもない。それがたとえ接戦であったとしても。
試合終了の合図を告げるサイレンを耳にした時、俺はまともに整列出来ないくらい泣き崩れた。でも決して先輩の引退が悲しくてないたんじゃない。自分の不甲斐なさに泣いたんじゃない。
地獄絵図のような試合が終わったことに安堵して泣いたんだ。
自分と同じように号泣してていた先輩達は多分、内心では《アイツが打たれさえしなければ》と思っていたことだろう。試合中、俺がずっとマウンドで苦しんでた時も一切、近寄ってくることなく代わりに冷たい視線を浴びせて来るような人達だから。
正直そんな人達の引退なんて本当に、心の底からどうでもいい。
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