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部屋は静かで、窓からは月明かりが差し込んでいた。
俺はベッドに横になり、しばらくぼんやりと今日のことを考えた。
「…本当に異世界に来たんだな。」
もし、自分がもとの世界で生きていたら、今頃はまだ仕事の最中だったはずだ。今日みたいに人と一緒に飯を食うこともなく、ただ机に向かってブツブツ独り言をいいながら仕事、仕事、仕事。もはや生きるために仕事をしてたのか、仕事をするために生きてたのかわからなかった。
「この世界は、自由でいいな。」
こんな風に、自由にできる時間も最近はなかったな。俺は死んだことになったはずだから、仕事の引き継ぎなんかも大変だろうな。なんてことを考える。
もとの世界に、未練はなかった。さっきから気になることといえば、仕事のことばかりで、プライベートのことは一切出てこない。それくらい、仕事しかしていない。
せっかく人生をやり直せるのだ。しかも、自分が思い描いていた異世界で。楽しまなくてどうするか。
―コンコンッ
ドアがノックされた。
「ソーマ、まだ起きてる?ちょっといいですか。」
「…イリスか。ああ、起きてるよ。」
イリスが、部屋を訪ねてきた。俺は、ベッドから起き上がると、イリスが部屋に入ってきた。
「少し、お話いいですか。」
「いいよ、俺もなんだか寝付けずにいたし。」
イリスは俺に向かい合うように、椅子に座った。話とはなんだろうか。
「さっきは、黙っててくれてありがとう。リックに変な心配をかけなくてすんだわ。」
「そのことか、別にそんなこといちいちお礼なんていいのに。こっちはタダで泊まらせてもらってるっていうのに。」
「一応、ね。なんかお礼を言っておかないとムズムズするっていうか、落ち着かないのよ。」
「そういうもんか。」
イリスは、見ていると、やはり幼く見える。育ちがいいのだろうか、さっきの食事の時も、姿勢よく、テーブルマナーみたいなものを守りながら食べていたようにも見える。だからこそ、疑問に思う。
「聞いていいかわかんないけど。なんで冒険者になったんだ。」
イリスはその質問に対し、しばらく沈黙を返した。
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