第10章 I Feel for You(心中お察しします)

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 そこでハタと合点がいく。なるほど堕天使ども(あいつら)かと。どこで何をしていようとも、やつらに監視されている。  ふつうに考えれば不快極まりないが、ああ見えて天の遣い、マウントを取るためだけに、わざわざアポを取ったVCのあの男と違い、挑もうにもまったく勝負にならない(バカバカしさも含め)。 「できたぞ。ぼーっとしてねぇで運ぶの手伝え」  その一声でハッと我に返る。湯気を上げるできたての朝食は、少しもスタイリッシュではないが、最高にうまそうだ。何より、湯気の向こうに恋焦がれた相手の笑顔が見える――これ以上の幸せがあるだろうか? 「あ、あぁ。ありがとう。うまそうだ」 「んで? 何をどう言われたわけ? ポーカーフェイスのおまえがめずらしく、ブチ切れてものに当たってふて寝までするとはな。敵さんもなかなかやるもんだ(笑)」  YouTubeのモーニングジャズのチャンネルをBGMに、焼きたてのトーストを口に運びながら、柊一の言葉に耳を傾ける。  サクッという音が聞こえたような錯覚を覚え、秋は目を見開く。パッケージを見る限り、いつもの食パンのはずだ。なのに歯ざわりが全然違う! うまい! 「何これ? いつもと同じ食パンだよな?」  してやったりという顔で見てくる柊一に、直球で問いかける秋。 「うまいだろ? 焼く前にバターを塗るんだよ。オリーブオイルもマーガリンも同じな。俺はマーガリンは好かないから使わねーが。じゃがいもとか鶏肉も焼く前に油分を加えたほうが表面がカリッと仕上がるんだよ、覚えておきな」  自然と笑みがこぼれた。昨日のクサクサした気分はいつのまにか消えている。もちろん、ふとした瞬間に思い出せば、ふたたびはらわたが煮えくりかえるだろうが。 「イヤな奴なんて世の中にいくらでもいんぞ、気にしたら負けだ」
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