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「杏南」
優しい声が少女の名前を呼ぶ。
そっと差し伸べられた白い手は、少しだけカサついている。
スンと鼻をすすると、目の前の人は笑みを深めて、少女の手を取った。
ギュッと握ってくる手は大きくて温かくて、泣いたばかりでぐちゃぐちゃになっていた心の中が静かになっていく気がした。
「おかあさん」
「隣にいらっしゃい」
まだ幼い少女は手を引っ張られ、ソファーに座っていた母親の隣にストンと腰を下ろす。
「杏南には悪気がなかったのよね? お兄ちゃんと遊びたかったのね」
「……うん。おにいちゃん、よろこんでくれると、おもったの」
兄の大切な何とか戦隊のレッドの人形の首が取れて、杏南の足元に転がっている。
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