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廊下を左に進む。
階段は下りず、右に折れて建物中央へと向かった。
左手にいかめしい扉が現れる。
光を当ててもなお闇に溶けそうな濃灰色だ。
金のドアノブはめっきが擦り切れて黒ずんでいる。
ノブを握る。
とっさに手を引いた。
金属特有の冷ややかさがあるべきそれは、人肌のように温かった。
手が穢れたような強い嫌悪感がある。
湧き上がる忌避感情を苛立ちで押さえつけ、扉を押し開けた。
生々しい臭いが司の肌を撫でる。
広い部屋だ。
奥まで光が届かない。
部屋そのものが幻想のようにおぼろげだ。
足元に引かれているのは赤いロングカーペットだった。
それを挟むように足が並んでいる。
順に照らすと、どれも等身大の人形だ。
血の通わない肌が陰鬱に光を反射している。
男女の人形は左右合わせて六体あり、どれも黒で正装している。
向かい合うように中央を見ていた。
――参列者か。
一歩踏み入れる。
背後で扉が軋む音がした。
振り向いた瞬間、鈍い金属音をたてて閉まる。
動揺してはいけないと司は自らに言い聞かせた。
相手の思うつぼだ。
しかし理性とは裏腹に心音は高まる。
どうにも心が定まらず、寄る辺ない。
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