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妙法寺-1
「あいつに近づくと呪われるんだよ」
小学校の教室で、くすくすと笑い声が聞こえる。
女子が三人、頬を歪めて窓際を見ていた。
「知ってる知ってる。お母さん、気持ち悪い人形ばっか作ってるんでしょ」
声はまるで潜められる様子がない。
教室の隅、席で縮こまっている私にまで、その会話は聞こえてくる。
「死んだ人と結婚させるための人形なんだって」
「じゃああいつの父親いないのって、まさか?」
「呪われて死んだんだよ、きっと。あいつと結婚したら死ぬんじゃない?」
「えーこわーい」
言葉とは裏腹に大っぴらな笑い声が響く。
私は顔を上げることができない。
机の傷跡ばかり眺めている。
意味もなくそれで迷路をしながら、早く終われと祈っている。
「そんなんじゃ誰とも結婚できないね」
「大丈夫だよ、お母さんの人形があるし」
「あれ死体用なんでしょ?」
「あいつも死体みたいなもんじゃん」
げらげらげら。
耳を塞ぐ代わりに心を閉ざす。
反応をすればまた笑われるからだ。じっとやり過ごすしかない。
死体のように。
人形のように。
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