妙法寺-1

1/3
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ

妙法寺-1

「あいつに近づくと呪われるんだよ」  小学校の教室で、くすくすと笑い声が聞こえる。  女子が三人、頬を歪めて窓際を見ていた。 「知ってる知ってる。お母さん、気持ち悪い人形ばっか作ってるんでしょ」  声はまるで潜められる様子がない。 教室の隅、席で縮こまっている私にまで、その会話は聞こえてくる。 「死んだ人と結婚させるための人形なんだって」 「じゃああいつの父親いないのって、まさか?」 「呪われて死んだんだよ、きっと。あいつと結婚したら死ぬんじゃない?」 「えーこわーい」  言葉とは裏腹に大っぴらな笑い声が響く。 私は顔を上げることができない。 机の傷跡ばかり眺めている。 意味もなくそれで迷路をしながら、早く終われと祈っている。 「そんなんじゃ誰とも結婚できないね」 「大丈夫だよ、お母さんの人形があるし」 「あれ死体用なんでしょ?」 「あいつも死体みたいなもんじゃん」  げらげらげら。  耳を塞ぐ代わりに心を閉ざす。 反応をすればまた笑われるからだ。じっとやり過ごすしかない。  死体のように。  人形のように。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!