望んだものはただ、ひとつ ~サチュアの罠~

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望んだものはただ、ひとつ ~サチュアの罠~

 沢山の人、人、人の波。ざわざわと騒めきに満ち、あちこちで客引きの声が上がっていた。  今日は年に二度ある、ボン・ナキュイユという国をあげての大市場が王都で開催されている。今日から一週間、オルシアの城下町にオルシア国内は勿論、各国の特産物や名産品が集まってくる。定められた場所で大きなテントを張って所狭しと並べられた商品を、これまたあちこちから集まってくる客が買っていくのだ。建国記念日や王族の結婚以外では、このボン・ナキュイユが一番王都に人が集まる時期だろう。  そんなボン・ナキュイユで賑わっている王都にある城で、シェリダンはぴったりとカーテンの閉められた室内に閉じこもっていた。勿論、シェリダンの意思ではない。だが、今回はアルフレッドの独占欲だけの結果というわけでもなかった。  ボン・ナキュイユを楽しむために王都に集まる人々は、せっかく王都に来たのだからと必ず城まで足を運ぶ。この時期は警備体制を厳重にすることを条件に、城の庭園を開放するのだ。城の中までは流石に入れないが、すぐ近くまでは行ける。安全面を考えてボン・ナキュイユの時期しか開放されないこともあって、皆がこぞって城を見に来るのだ。そうなると、あわよくば王や王妃の姿が見られないものかと思うのも、ある意味当然で。なかには双眼鏡を持ってくる者までいる。当然警備の衛兵や近衛達が目を光らせているが、万が一がないとも言い切れない。  そんな事情もあって、ボン・ナキュイユが始まる前日に高官達が揃ってシェリダンに謁見し、絶対に部屋のカーテンを開けず中庭は勿論バルコニーにも出ないでほしいと懇願されたのだった。  アルフレッドの許可がない限りは外へ出ないと約束したとはいえ、レイルの散歩やバルコニーに出ることはその限りではなかった。元々活発的ではないシェリダンであったが、流石に一度も外へ出られないとなると息が詰まってしまう。ボン・ナキュイユの間はレイルの散歩もアンナに任せて、シェリダンは行ってあげることができない。それもまた、シェリダンを気落ちさせる原因でもあった。
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