序文『開闢』

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序文『開闢』

炎の昇る所が空、水の満ちる所が海と呼ばれる前の頃、世界は混沌たる地と闇に覆われていた。 草木は枯れ、大地はぬかるみ、その様は魔物のみ跋扈する魔境であった。 やがて魔物を統べし女が現れると、眷属を照らす偽りの太陽を創った。 それは紅く透き通り悪しき波動を放つ、魔物のみ恩恵を賜る邪なる水晶であった。 最後まで残った生命すら滅びると思われたその時、暗雲を裂いて天より一筋の光が差し込んだ。 玄き混沌しか知らぬ魔物はたちどころに目を潰し、真の太陽に灼かれ塵と帰した。 すると天は偽りの太陽を見つけ、天より一つの光を産み落とした。 それは蒼銀に輝き聖なる風を帯びる、混沌を滅する破邪の鋼であった。 鋼の鏃は水晶を貫くも、水晶に内包されし深淵によって熔けてゆく。 しかし鏃に内包されていた聖気も溢れだし、両者は天地の狭間にて混ざり合った。 邪気により蒸発した鏃は火と風に。聖気により清められた水晶は水と地となった。 そして永劫の時を経て均衡が訪れるようになり、魔境はいつしか万物の生命が芽吹く楽園となった。 しかし、この衝突は未だに続いている。世界は危うい均衡の上に成り立っているのだ。 この世に朝と夜があるのは、その双極の均衡の趨勢が未だ移ろっている証左なのである。 ~解説~ 世界で最も信仰されている自然信仰教団「黎明教」。特にこの聖典序文は、光と闇、そして四属性の源を解明した「双極四源論」の源流とされており、信仰・魔術体系の双方の観点から重視されている。
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