その少女、自由につき

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その少女、自由につき

ジークエアーデ王国には、姿形は見えても実態がよくわかっていないものがいくつかある。そのうちの一つが、世界を見下ろすように宙に浮かぶ小島、ドラヘインゼルである。 そこにはドラゴンと共生する亜人の一種、「竜人」が住む独自の生活圏を持ち、いつ建立され、用途も不明な古めかしい古城を有しているといった謎だらけの天空の島であった。 しかし、竜人のプライドの高さや排他的な性格が災いしてその実態は一切不明。わかっているのは、皆一様に長い耳を持ち、地上では見た事のない民族衣装を着ているということくらいである。 実際に、首都ツェントゥルム市民に竜人の印象について聞いてみた。 水揚げしたばかりの魚を売る商人は以下のように語る。 「空の上に住んでるからか魚が珍しいみたいでな、よく買ってくれるよ。ただ愛想が悪いから、こっちも商売し甲斐がないねぇ」 まだ新築の匂いが漂う王立図書館の司書はこう語る。 「本を借りて行った方は今の所いませんねぇ…。居心地が悪いのかすぐに去ってしまいますし、ここは竜人さんの興味をもつ本を仕入れるしかありませんかね…!」 そして、カンパニーの受付にいたピンク髪の女性はこう語った。 「はい、悪い人たちではないのですが、マジメすぎると言いますか…確かに少しとっつきにくい感じはありますね。いつか依頼を通じてでもいいので、頼ってくれるといいのですが…」 「え?それ誰のことー?教えて教えて!あたしからもっと仲良くしてって言ったげるから!」 すると、受付嬢の言葉を遮るように闊達な少女の声が飛んできた。筆者が目線を下げると、受付カウンターの横に椅子を置き、コーヒーカップを片手に笑顔を浮かべる、青みがかった薄緑色の髪を持つ少女の姿があった。しかも驚くことに、その少女の耳は、我々ヒトのそれに比べて長かったのだ。 「…ええ、もちろんこの子…フロウちゃんみたいに元気な子もいますから。いつかわかりあえるって思ってます」 受付嬢は少し困ったような表情を浮かべながら、そう締めくくったのであった。
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