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首を傾げながらも、玄関から室内をこっそり覗き込む。始めに飛び込んできたのは、レトロで良い味を醸し出すくすんだ茶色のフローリングが敷き詰められた廊下。靴箱の上にはマトリョーシカから木彫りの熊まで、様々な国や地域の土産物が飾られている。天井は高く、花の蕾のような形のシーリングライトが優しく室内を照らす。ざっと見渡しただけでもアンティークの家具や小物で統一されており、かなりのこだわりが感じられた。
ぼんやりと中を覗き込んでいると、家の奥から乱れた足音が響いてきた。そんな中、足元から先ほどのひょうきんな声が聞こえてくる。
「キヅカちゃん、こっちやこっちー」
声につられて下を見る。玄関の真っ白な床石に、ちょこんと腰を下ろす一匹の黒猫。その猫は私と目が合うと、満足げに琥珀色の瞳を三日月のように細めた。
「ようこそ、ライラックの家へ。わいが、ここのオーナーをしとるコハクや。よろしゅうな」
「……え?」
猫が、しゃべった?
にんまりと口角を持ち上げる黒猫に、一瞬思考が停止する。脳がキャパシティオーバーを起こした時、頃合を見計らったかのように一人の少年が廊下の奥から飛び出してきた。
彼は慌てた様子で黒猫を抱きかかえると、視線をひどく彷徨わせながらぶつぶつとまくし立てた。
「ちょっとコハク、勝手に出て行かないでくれよ! 喋る猫がいるなんてことが知れたら、俺の平穏な日々が一瞬で崩れ去るじゃないか!」
「そないなケチ臭いこと言うなやー、ジオちゃんよぃ」
「ケチ臭くないから。これ一般論だから!」
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