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一生に一度の出来事は幸か不幸か
居酒屋・泉。
店内には小鍋が沸々と沸き上がる音と、食欲がそそられる薫りが広がっていた。
そんな時、俺のスマホの着信音が鳴り響く。画面を見ると本業の担当からで、俺はすぐ電話に出た。
「はい、もしもし」
『あ、もしもしお疲れ様です宇都木さん! 先日はお客さんへの対応助かりました! あれからセクハラのような事も減ったと聞きました』
「別に俺は何もしてないっすよ。普通に仕事しただけっすから」
まぁいつもの女じゃなくて金髪の男が何も知らされずに来たら、誰だってビビるだろう。俺の顔見た途端、あのおっさん顔面蒼白だったからな。あれに懲りたらしばらくはおとなしくなるだろ。
『さすが宇都木さんです! ……それであの……出来ればまたお願いしたい事がありまして……』
担当の声が明るいものから、腰を低くしたような声音に変わった。
また問題のある客への対応か担当代えだと俺は思い、お玉で小皿に煮汁を取りながら会話を遮った。
「次は何すか? またセクハラ野郎すか? それともクレーマーとか?」
『えっと……実は……他の方が担当に付きたがらないお客さんが居まして、そこの担当を宇都木さんにお願い出来ないかと……』
やっぱりかと、俺は小皿の煮汁を口に運び味を見た。悪くはない。
向こうは相当困っている様で、電話の向こうで頭を抱えているのが見えるみたいだった。
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