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1.出港日和
見上げると、雲一つ無い晴天であった。
白いさざ波が打ち寄せるジェノバ港を、今まさにパラディーゾ号が出港しようとしていた。
「今日こそは、絶好の出港日和だ」モストーク船長は乗員達の前でそう言った。
「船長殿!」濃紺と白のコントラストの水兵帽と水兵服姿の少年が、敬礼しつつ声を発した。
「目的地はどこでありますか!?」
「目的地かね」船長は軽く答礼しつつ答えた。
「今は、南の島とだけ答えておこう」
「なぁ、船長さんよ」海賊らしい青黒い三角帽をかぶった男は海賊刀の先端で天を指し示す。
「海戦はあるのかい?」
「もちろんだ」と船長。
「君の剣さばきを見せてもらいたい」
「どうぞ、船長さん」透き通るようなコバルトブルーの優雅なドレスに身を包んだ妙齢の淑女が船長に歩み寄り、白い薔薇を手渡した。
「航海が順調でありますように」
「ありがとう」船長はその薔薇を左胸のポケットに刺した。
「必ずあなたを送り届けますよ」
「あのー、、、船長様」煤けた薄水色のぼろ着をまとったやせ細った男がつぶやくように言った。
「おいらは、密航者だで、おいらは海に放り込まれるんですかい?」
「いいや」と船長。
「この船は大きい。君一人が増えたところで然したるものでもない。大丈夫だ」
「さて、もう質問は無いかね?」船長は乗員達を見渡した。
そして、船長は船長帽をかぶりなおして高らかに宣言した。
「では、出港だ!」
パラディーゾ号は、白い雲のさざ波が打ち寄せるジェノバ港を、空の高みを目指して出港した。
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