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ここで間違いないはず。 大崎はメールに書かれていた住所と車載ナビに設定した住所をもう一度確認した。 大崎の目線程度の高さはある土塀の横をノロノロと走らせていると数奇屋風の門扉が現れた。奥にはパッと見は料亭か旅館かと思うほどの邸宅が植栽の隙間から見えた。 駐車スペースを探していると中から和服姿の女性が出てきてぺこりと頭を下げた。 どうやら駐車場に案内してくれるらしい。 ホッと息を吐き出し、彼女に従って敷地の中に車を進めた。 「こちらでお待ちくださいませ。」 「ありがとうございます。」 通されたのは板張りの和室に革張りのソファが置かれた和洋折衷の応接間だった。太い柱につい目がいく。 部屋に着くまでさりげなく観察した限り、とんでもなく金の掛かった建物であることは間違いなかった。 くるりと見渡すと凝った調度品がさりげなく置かれている。 贅沢品や骨董品を見慣れているはずの大崎だが、それでもため息が出た。 とにかく趣味が良い。マイセンのアンティークな置時計は現役のようで静かに時を刻んでいた。 裁断前の友禅が衣桁に引っ掛けられている。無造作に放り投げた体だが、中々どうして客がソファに腰掛けた時に最も美しく見えるよう細かく計算されている。 「虫食い……加賀友禅か。」 描かれた朝顔の葉先が少し茶色い。不必要にえぐれたような葉も描かれていた。 「さっすが先輩、よくわかったねー。」 からりと開けられた障子から明るい声が飛び込んでくる。 つられて顔を向けた大崎は、文字通り固まった。 日本人形…… 目の前にいるのは翔子であることは間違いない。だが薄緑の地に桜の舞う振袖に身を包み、艶やかに微笑む彼女の頬は人間とは思えないほどに透き通っていた。
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