さくっとしてるけど、幸せだよ?By紗々

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さくっとしてるけど、幸せだよ?By紗々

って、ことがあったんです。」 悟は、目を閉じて、一呼吸置いた。 社を代表する人間の言葉にしては、親しみやすい語り口調は、あっと言う間に、聞く側の関心を高めていった。 ゆっくりと目を開け、視線を真っ直ぐに向けた。 「これからの君たちには、過去のシコリがまだ、現代でも残っていることだけは知らせておく。  だが、それに負けてはならない。 傷つくことを知っている者は、人の痛みを知っている。 平気で誰かを傷つけることに麻痺してない君たちこそ、これからの幸せを作る手段を見つけることができるのだ。」 悟は、一歩下がって一礼した。 疎らな拍手が徐々に数を増し、数秒後には大きな波へと変わっていった。 「お疲れ様です。 素敵でしたよ、専務。」 緊張から解放された悟は、自分を待っていたその人を見て、頬を緩めた。 まさか、こんなことが先に待っているとはだれも思っていなかっただろう。 悟の勤め先であり、紗々の仕事場が、実は森家の会社であったこと。 紗々の就職が決まったと同時に長男は仕事を3男に任せ、新しい会社を立ち上げようとしていた。 3男は学生のうちに長男から押し付けられた仕事に嫌気がさしてきたが、世間を知るうちにその考えを改めていった。会社自体に森家の名前などどこにもないのは、母方の姓を前面に出していたからで、紗々と悟がルンルン気分で会社のエレベーターに乗り込んだら、兄達と鉢合わせして驚いたのは、また、別の話。 (おまけ) 「紗々は、気付かなかったの?」 「え? だって、「森」も、「佐藤」もどこにでもある名字じゃん。」 そうかぁ。 そんな風に考える紗々もかわいいなぁ...と思う悟だった。 見つめあう悟と紗々。 狭いエレベーターの中では、何かが起こってしまうかもれない。 (...おい、俺がいるのを忘れてないか?) 見つめあっている2人を背後でじーっと眺めている鉄次郎だった。 独身、30歳。心のポエムが聞こえそうです。 予告 次からは、会社に出た悟と紗々、そして時々、森家の人々の話になります。
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