1/4
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

そろそろ来る頃だなぁと思っていたから、僕はちっとも驚かなかった。 「それでね!そいつの仕事まで手伝わされそうになったからさ、言ってやったの!」 彼女が転職して一週間が経っていた。開口一番、新しい職場のシステムのグチから始まり、上司の使えなさを嘆き、仕事のできない同僚への不満を語り始める。どこへ行っても敵を作り、人間関係のトラブルにより転職を繰り返している彼女が一週間まともに勤めて来たことが奇跡のようだ。 「なんで私が尻ぬぐいしなきゃいけないんですか!って!そしたらそいつ怒り出しちゃってさ、上司に言いつけに行ってんの。自業自得のくせに」 残念。奇跡はほんの一瞬だったようだ。きっと来週には彼女はまた転職していることだろう。 すごいな、と思う。転職して一週間で職場の仲間や上司とケンカできるとか。思ったことが全て口から出ていくこととか。僕には絶対無理だから。 「ねえ!ちゃんと聞いてる?」 「聞いてるよ」 「嘘!だっていつものアレがないじゃん!仕事は我慢も大事だよ~とか、助け合いも必要だよ~とか、うわべだけの説教」 さすがにこう毎回だと説教する気力もなくなってしまった。僕は職場の同僚は仲間だと思っているけど、彼女にとっては同僚は全員敵らしい。考え方が根本的に違うのだ。飴と鞭どころか、鞭だらけの世界で戦っているような彼女に、かけてあげられる魔法の呪文は僕の中にはもう残っていない。 「僕は説教できるほど立派なヤツじゃないからね」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!