序の弐

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序の弐

()る時、狸がやって来た。 狸は大層愛らしかったが、私慾(しよく)が過ぎて仲間の輪から外された。 彼は狸を受け入れた。 似た境遇に情けを覚えた。 或る時、犬がやって来た。 犬は荒ぶる(こま)だった。 拝む者の去るにつれ、気を狂わせた神使(つかい)だった。 彼は狛を(あわ)れんだ。 ()の慈しみが狛を正気に返した。 三者は互いに干渉した。 彼は(やしろ)()()とし、狸は(さと)を拠点にした。 狛は(もり)を駆け回り、里と社を行き来した。 彼は狸と狛と人の暮らしを見て暮らした。 其れから、或る時、里に災いが降りかかった。 杜を巡る水が(よど)み、濁り、腐って、草を枯らした。 木はとうに倒れていた。 陽炎(かげろう)が立ち昇り、方々で火の手が上がった。 里は燃え盛る(ほのお)に呑まれた。 彼は(これ)に胸を痛めた。 苦しむ人を助けたかった。 逃げ惑う人を救いたかった。 彼には、為す(すべ)がなかった。 其処(こそ)に≪彼≫が現れた。 ≪彼≫は之を(わら)っていた。 人の有様(ありさま)と彼の嘆きと、彼と彼の仲間の無力を嗤った。 其れから≪彼≫は斯様(こう)()った。
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