プロローグ

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コバルトブルー、エメラルドグリーン、ワインレッド……。 清涼たる水を豊かに貯えた“女神の湖”は、見る者の在り方ひとつで彩が大きく違って見える。 ここは神国でも神々たちが最も大切にしてきた場所だった。それはそこに世代を繋ぐ“命の水”が宿るからだ。 命の水とは、神緑(しんりょく)の季節(千年に一度巡り来る季節)に水神一族の降らせた緑雨(りょくう)が、湖を囲んだ木の葉を伝って滴下(てきか)した樹雨(きさめ)を云う。 その中でも、樹齢も定かでない老神樹から千滴目に溢れ落ちた一滴は、湖の女神にとっても水神一族にとっても特別な(しずく)とされてきた。 それはその雫が、湖の守護神である次期水神一族(おさ)の花嫁となるからだ。 しかし、あってはならないことだが、平和な神の国にも良からぬ思いを抱く輩はいるもので――。 『水神が湖の守護神とは納得いかぬ。我が雷神こそ相応しい』 『水神様の花嫁がどうして雨の雫なの? 私の方が美しいのに』 と、それを良しとしない者たちが、己の野望を遂げようと、反逆の機を虎視眈々(こしたんたん)(うかが)っていた。 そして、水神一族新長誕生を目前に、とうとう『長の花嫁を人間界に滴下する』という形でその思いを遂げてしまった。
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