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天才少年
天才というのは実在する。
それが悲しいことなのか嬉しいことなのかは定かではないが、ツチノコやネッシーと違って確実に存在する。
僕の友達がそうなのだから。
小学校からの同級生、三明解人は天才だ。
天才にも色々いる。
数学者、サッカー選手、ヴァイオリニスト、一度覚えたことは忘れない系。
一言で『天才』と言っても、そのジャンルは多岐に渡る。
では、三明解人は、というと。
言うなれば『オールラウンド』といったところだろうか。
解人は一般人より秀でたことができるわけではない。
ただ『一般人ができることをすぐにできる』のだ。
多くの人ができることを、多くの人ができるレベルで、多くの人ができないスピードでできる。
「100回もいらない。3回でいい」
これは彼の言葉だ。
人が100回練習してできるようになることを、彼は3回でできるという。
そしてそれが誇張表現でないことを、僕は長い付き合いの中で証明されてしまっていた。
例えば小学生の時は縄跳びの二重跳び、中学ではリコーダーの演奏、高校では百人一首の句覚えを、といった具合だ。
『何をさせてもそつなくこなすやつ』の最強版だと思ってもらえればわかりやすいだろうか。
彼曰く、
「一度目で物事の構造を理解、二度目で修正・改善、三度目で微調整して完成」
という感じだそうだ。
そして彼はこうも言っていた。
「『仏の顔も三度まで』という言葉があるだろう。仏ですら初めて怒るのに三度は練習が必要だったということだ。つまり私は仏と同等」
これはさすがに意味がわからなかったが。
先のセリフで彼の性格面については少々ひん曲がってしまっているのは感じてもらえただろう。しかしそれでも、その程度では彼の才能は傷一つつかない。
何でも思ったことは真っ直ぐに言う性格が災いし友達も少なく、周りからは「ミスターサンド」と呼ばれたりしているが、その程度では彼の才能は欠片すらこぼれない。心も挫けない。
故に、天才。
天才オールラウンダー・三明解人。
そんな彼が現在、顔面蒼白で僕の前にいる。
「……問也、大変なことになった」
眼鏡のブリッジを指で押さえながら、苦しそうに彼は言った。
「3回じゃ足りない。100回いる」
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