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すると何処からともなく、樹と累に近付く影があった。
「これはこれは、本日の主役の樹君じゃないか」
「「速水様」」
内心、こいつが憂妃を…っと思っては居たが、顔には出さなかった。婚約パーティーを開催する条件として、暴れない事を約束したのだ、問題は起こせない。
「少し小耳に挟んだのですが…お相手の方がお見栄になれないとか?」
…誰のせいだと言いたかったが、ぐっと堪えた。
「どうです?私の娘を婚約者として紹介すれば宜しいのでは?」
速水は、後ろに居る娘を手招きした。
「香菜です。樹様、私を婚約者にしてください」
香菜は、嬉しそうに近寄ってきた。
「「さて、問題です。どちらが樹でしょうか?」」
樹と累は、突然そう尋ねた。
「えっ?…樹様は…?」
香菜は、樹と累を見比べるも区別がつかなかった。
「「はい、残念です」」
樹と累は、手を上げて呆れてしまった。
「…樹様が私の傍にいれば問題無いですわ」
「貴女は俺達のどちらでも良いんですね」
「そんな事はありません」
「俺は、貴女を見付けられますが、貴女は俺を見付けられない。つまり、誰でも良いのと同じです」
「…」
「俺の婚約者は、何処に居ても俺だと分かってくれて、傍にいたいと思う大切な人です」
樹は、憂妃を思い出して優しく微笑んだ。
「…でも、あの子はもう居ないじゃない…」
香菜は、悔しそうに顔を歪めた。
「「…」」
樹と累は、黙ってしまった。
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