5人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
*
執筆画面を前に、途切れた文と睨みあう。授業が終わり、昼を終え、睨めっこを始めて十分は経った。
つい昨日、新作に取り組みはじめた。
テーマである〝100〟を題材に練っているのだが、意外にピンと来ない。あれやこれやと考えては、これじゃ駄目だと切り捨てた。
「それってエブリハート?」
唐突な声に、肩が跳ねる。画面を伏せて後ろを見ると、見知らぬ男子が立っていた。
「今見てたのってエブリハートだよね。しかも執筆画面」
「そうだけど……」
ズカズカと前席の椅子に座る彼の情報を、必死に思い出そうと努める。交友を疎かにしたツケが、こんな所で出るとは思ってもみなかった。
「君、小説書いてるんだ。実は僕もなんだよ。しかも同じサイト」
「あ、そうなんだ。えっと……」
記憶散策はリタイアし、男子生徒を見遣る。思考を察したのか、苦笑を見せた。
「今野永幸。隣のクラスだから知らなくて当然かも。今日は用があって来てただけだし。君は確か萩原くんだっけ?」
「うん、よく知ってるね」
「当たってて良かった。あ、折角だし萩原くんのアカウント教えてよ」
今野は、ポケットから携帯を出す。裏腹に、俺は置かれた状態のまま手を被せた。
「いや、恥ずかしいからいい」
「えっ、投稿してるのに?」
「リアルの人に見られるのはちょっとって感じ。ネットだから出せるって言うか……」
実は、小説を書いていることは自分だけの秘密だ。いや、違う。賞を取れない小説など、知人に堂々と見せられなかった。
「なるほどね」
「今野くんは恥ずかしくない?」
「全然。寧ろ嬉しいよ」
屈託のない笑顔が零される。自分にはない表情に、純粋な憧れを感じた。
同じ場所で書いている、初めての人。けれど俺とは違う人。そんな彼を、もっと知りたくなった。
「……ユーザー名、聞いても良い?」
最初のコメントを投稿しよう!