目を閉じて、100数えたら さようなら

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 誰だろう。笠原君? 持田君? それとも、立川君? 私が顔と名前が一致している達彦の友達はこんな程度しかいない。他の人だと来られても分かんないかもな。  そんなことを考えながら中央改札口を眺める。地下鉄の改札は別の場所だから、相手が地下鉄で来るなら意味がない行為ではあるが、誰が来るのか気になっていた。私を元気づけるための悪戯なら、心配かけて申し訳ない気もするし、悪趣味だと怒りたい気もする。相手がどんな顔で来るかでどうするか決めようと思っていた。  改札口を見ていた私を「ミチ」と背後から呼ぶ声。その声と呼び方は、幻聴かと思うほどに耳に馴染んだ物と似ていて、胸が微かに締め付けられるように痛んだ。  あぁ、地下鉄で来たのか。と振り返った私は目を丸くした。  そこに立っていたのは、服装をちょっと手直ししたくなる絶妙なダサさの笠原くんでも、コンタクトよりメガネが似合うと常々思っている持田くんでも無ければ、もう少し愛想が良ければモテそうな立川くんでもなかった。 そこに居たのは、普段と何ら変わらない、Tシャツにジーンズに、スニーカーを履いた達彦本人だった。 「ごめんね、待たせた」 「え……あ、うん。大丈夫、そんなに待ってないから。……てか、え……? なんで?」  どうして達彦がここにいるのか。悪戯だとばかり思っていた私は、舐めるように達彦の頭の先からつま先までを何度も見ていた。何度視線を沿わせても、それは間違いなく達彦で、どこにもおかしい所なんてないように見えた。 「なんでって、何が?」 「いや、だって。本当にタツだと思ってなかったから。笠原くんとかその辺がいたずらしたのかなって」
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